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物語が生まれる場所。

月夜に綴る物語。

美しい木の物語

物語
広い草原に一本の大きな木が生えていました。木はそれはそれは逞しく、そして美しいのでした。

近くに住む少年マルコはこの木が大好きで、彼らは大の仲良しでした。

マルコは木の事を"先生"と呼びました。
木はマルコが生まれる1000年以上も昔から生きているので、それは至極当然の事なのでした。

ある日、マルコはいつもと同じように先生と話をしていました。「先生!どうして先生の葉っぱはそんなに美しいのですか?」
マルコはこれ以上ないというくらいに、木の葉の美しさに感激していました。
そして自分もいつかは先生のように美しく、そして逞しくなりたいと願っていました。

木は優しい声で答えました。
「マルコ、君は私の葉を美しいと言いましたね?しかし、私は自らの葉を美しく見せようなどとは、これっぽちも思ってないのです。」

マルコは驚きました。
「ではなぜです、先生。なぜ先生の葉っぱはこんなにも僕の心を魅了するのでしょうか。僕もそうなりたいのです。教えてください、先生。」
マルコは泣きそうになりながら懇願しました。

マルコは自分に自信の持てない少年でした。
とりわけ顔も頭も良くなく、平凡で、腕っぷしが強いわけでもない。自慢できる事といえば母親に内緒で夜な夜な練習しているギターの演奏だけでした。マルコの夢はミュージシャンだったのです。

しかしギターといっても、プロミュージシャンのそれとは違い、とても大人数の前で演奏できるようなものではありませんでした。
故にマルコは自分に自信がもてませんでした。
そしてマルコはそんな自分が大嫌いでした。

そんな心情を見透かしたかのように木は言いました。
「マルコ、君は周りに、そして自分自身にももっと正直にならなければいけません。」

「私は木です。木は木である為に一生懸命生きている、ただそれだけなのです。」

「マルコは私の葉を美しいと言ってくれました。どうもありがとう、しかしマルコは全てをわかってはいません。この葉が美しいのは、それは根っこがしっかりしているからだと私は思います。」

「根っこ?」マルコは目に涙を溜めて聞きました。

「そうです。根っこです。私の根っこはそれはそれは美しく、逞しいのです。」
木は誇らしげに言いました。

マルコはついに泣き出しながら言いました。
「でも先生、根っこは目にみえません。土の中に埋まってしまっているし、葉っぱより美しいわけありません。先生は間違っています。」

木はやはり優しい声で言いました。
「マルコ、目に見えるものよりも、見えないものの方が実はずっと大切なのです。私は1000年以上生きているのでこれだけはハッキリとわかります。」

マルコはわけがわからなくなりました。
「じゃあ、僕はどうすればいいのですか?僕には根っこがない。全部見えてしまっている。どうすれば先生のようになれますか?」

木は長いツルを指の代わりにしてマルコの胸に触れながら言いました。
「根っこはあるじゃないですか、ほらここに。」

「心です。マルコ、君はとっても優しい心を持っています。そしてそれはこれから様々な経験をし、学び、どんどん逞しく、そして美しくなっていくでしょう。」

マルコは涙を拭いながら言いました。
「本当ですか?本当に僕の心は先生のように美しくなれますか?」

木は答えます。
「先の事は私にはわかりません。私は過去の事しかわかりません。しかし誰にだって可能性はあるし、希望がなくてはなりません。マルコも同じです。」

「それにね…」

木が何かを言いかけたところでマルコの母親がやってきました。
「マルコ、またこんな所であぶらうって。宿題を先に済ませる約束だろ?早くやっちまいな!ホラ、早く!」

マルコは木が言いかけた言葉がとても気になりましたが、母親にこれ以上叱られたくなかったので、渋々、木のもとを去りました。

マルコの家の玄関まで行くと、ふと心地良い風が吹きました。
そしてその風に乗せた木の優しい優しい言葉がマルコのもとに届きました。

「それにね…マルコのギター、私は好きですよ。」

その後マルコは沢山学び、過去を知り、自分を知り、少しずつ少しずつ、逞しく、そして美しい心を育てていきました。

大人になったマルコは気づけば立派な"葉っぱ"を沢山身につけていました。

そして彼の息子がある日こう言ったのです。

「パパはかっこいいね。どうすれば僕もパパみたいになれるかな?」

マルコは優しく笑って言いました。
「それはね、目に見えない根っこをしっかり育てる事さ。君ももう少し大きくなったらきっとわかるよ。」

そしてマルコは今日も拙いギターで希望溢れる歌を歌うのでした。
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